わんちゃんを膝に載せた、華奢で可愛らしい女性。カメラ越しでも伝わってくるその軽やかな雰囲気に、インタビューアのSakaseruスタッフは、ほっと肩の力を抜きました。
この度インタビューにお答えいただいたのは、俳優・声優の黒沢ともよさん。2018年には声優アワードも受賞した、実力派として知られる方です。
外見やお声から伝わる柔らかい印象とは裏腹に、お芝居への強い情熱や、努力を惜しまない芯のあるお人柄、そして業界が直面した新型コロナウイルスについても、黒沢さんの言葉をお伝えします。
黒沢さんの役者人生は、“習い事”の一つとして始まりました。挨拶、礼儀、そういったものを大切にする子役界に所属させることが、親御さんのしつけの一環だったそう。
その背景からか、はじめは劇団に行くのも、お芝居をしに行くというよりは、「友達の家に遊びに行く感覚」だったといいます。しかし5歳で初舞台を迎えると、次第にお芝居に夢中になっていきました。
「初舞台は私にとってすごくセンセーショナルな体験で。色んなお芝居をして、色んな人と出会っていくうち、6,7歳の頃には、『お芝居で食べて行きたい』と思うようになりました」
先輩役者の方や沢山のスタッフさんに囲まれて、一つの舞台を作り上げていく体験。その厳しくも暖かい現場、お芝居そのものを、黒沢さんは大好きになっていきます。
順調にキャリアと経験を重ねて行きますが、中学2年の時に児童劇団を退団。芸能活動を一時、休止します。多感な思春期、学生生活を存分に楽しみたかったのです。
「でも、やっぱりお芝居が好きだな、やりたいなって思いました。休止中も一般公募のオーディションに参加したりして」
仕事が好き、お芝居が好き――そんな黒沢さんの情熱が伝わったのか、高校1年の時、子役時代の知り合いから立て続けに声がかかりました。
「どこかに所属をした方がいいかもしれない」そんな風に思っていた時、たまたま面識のあった現事務所・マウスプロモーションの方とお会いします。
「その方が面倒を見ようか、と言って下さり、そのままマウスプロモーション所属になりました。他にもお話させて頂いていた事務所さんもあったので、声を掛けてもらわなかったら、今ここにはいないですね。ご縁、ですね」
現在もマネージャーとして働くその社員さんを含め、その頃から事務所の方とは、近い関係で仕事をしているそう。黒沢さん自身が、距離近く仕事をすることを望んでいるからです。
例えば黒沢さんは全マネージャーさんの連絡先を把握していますし、全マネージャーさん+黒沢さんのLINEグループを(勝手に)立ち上げてしまいました。しかもそこで発言するのは、ほぼ、黒沢さんのみ。
「写真とか超長いメッセージとかを私が投げ続けていて、『こんな仕事でした』とか『熱何度あります』とか、日記みたいなことを送っています。皆ほとんど返事くれない。
新しいマネージャーさんが入ると、最初は返事してくれるんですけど(笑)」
これも元々目的があって始めたことでした。
「スケジュールを調整をしてくれる方は一人ではないので、どうしても『この人に言ったけどこっちの人には言ってない』という状況が発生してしまいます。それをなるべく解消したくて」
いつどのような仕事が入ったのか、この仕事はこんな内容で、どんな部分に気を遣うのか。そんな発信を黒沢さんからすることで、スケジュール表だけでは把握できないことも、マネージャー陣に共有できると言います。
「例えば、舞台が17時に終わるとしたら、時間だけ見ると、その後も仕事を入れることができそうですよね。でもその舞台で号泣するシーンがあったら、目が腫れているので撮影なんかの仕事は入れないほうがいい。そういうちょっとした情報の共有が、事務的でない形でできたらいいなと思ったんです」
人懐っこいお人柄とクレバーなお考え。その合間から、仕事に対する真摯な姿勢が垣間見えるのでした。
舞台演劇から始まった黒沢さんのキャリアですが、現在の事務所に所属したあとは、次第に声の仕事が中心になっていきます。声優業だけを数年続けたあと、舞台中心に戻したのは、今から2年ほど前のこと。
舞台の上は黒沢さんにとっての“ホーム”であり、現在はその原点に立ち返っているのだそうです。
「声の仕事だけをしていた数年間、技術的には新しいものを沢山得ているはずなのに、それを消化できていないように感じていました。私は演劇の経験を頼りに声の仕事をしていたのに、徐々に演劇の感覚から離れてしまっていたからです。大学の卒業を機にもう一度舞台のお仕事の方も大事にしてみようと思いました」
役者として更に成長するため、舞台演劇に立ち返る。その時間が黒沢さんに必要だったのです。
そんな黒沢さんは、役者さんとしては、どのような方なのでしょうか。
「どんな役者かは、私が聞きたいくらいなのですが。
自分としては、“クリスマスの時に食べるジンジャークッキー”のような役者という感覚があります。
私はお水みたいに毎日飲まれて、広く広く手に取られるような……そういうタイプでは“ない”と思っています。
なので、そんなわたしを自分で肯定していくためにも、どうしてもこの役には黒沢ともよがいい、そういうスパイシーで唯一無二の存在でいなくてはいけないなと思っています」
“ホーム”の舞台演劇に戻って数年。今年はじめ、新型コロナウイルスの流行により、舞台演劇が全面的に自粛となりました。
黒沢さんのスケジュールにも、当然変化が。ただ、ぽっかりと時間が空く、ということはなかったそうです。
「4月の下旬までオンラインで行われた演劇の仕事が入っていたので、時間ができてきたのは5月からで……。
5月に入ってからも、初週に始めたnoteの準備にも追われていて、暇になるということはありませんでした」
現在、非常に力を入れているというnoteの準備には、約1週間パソコンに張り付いていたそうです。
ただそれでも、普段のスケジュールよりは余裕があったというのですから驚きですが、そのわずかにあいた時間には、幅広く学びの機会を取り入れていきました。英会話、スペイン語、オンラインボイストレーニング、次回出演予定作の読み込みなど……。
ストイックな時間の使い方の裏には、自分に厳しい姿勢がありました。
「役者のギャランティに対する考えはひとそれぞれだと思いますが、わたしは『その作品にたどり着くまでの自分の人生の経験に対して支払われるもの』だと思っています。なので、次の作品のギャランティも自信を持って受け取るために、時間が空いたなら、自分への投資を始めなければと思います」
そんな高い意識と仕事へのモチベーション、事務所の方からのバックアップもあってか、ご自身のお仕事そのものについては、現在も不安を感じていないようです。
しかし、新型コロナで多大な影響を受ける演劇業界そのものに話を移すと、表情を曇らせました。
「ただ辛いのは、『この人のお芝居、素敵だな』と思っていた方が、『コロナで生活が厳しいのでバイトをしている』と言うのを見たときです。
新型コロナで仕事の絶対量が減ってしまうことで、役者さんが学ぶ機会や経験する時間を奪われてしまっているのではないか、と感じます」
誰より演劇界の方々へリスペクトを持つ黒沢さんは、人によっては努力をしたくてもできない状況があることに、心を痛めています。
最後に、ファンの方についてお伺いしました。
黒沢さんにとって、ファンの方とはどんな存在でしょうか。
「すごくありがたい存在です。
自分に置き換えて考えたとき、一人を応援するってなかなか出来ないと思いますし……。
長く応援してくれている人なんかは、親戚の人、くらいに感じてます」
ファンの方が贈って下さるお花についても「大好きです!」と、黒沢さん。なんと、お花によって公演期間中、ウォーミングアップのモチベーションも変わるそう。
また、仕事を舞台演劇中心にした近年は、ファンの方との距離にも変化があったそうです。
「以前はライブやラジオ出演など、ファンの方の声が私に直接届く機会も多かったんです。その頃に比べると、今は少し距離があるかもしれません。でもマイナスではなく、今の距離感だからできることも多いかなと思っていて。
ファンの方との距離が変わることで、黒沢ともよ自身としても、できることが変わりました」
想像以上に、ファンの方の影響力は強いようです。そんな大切なファンの皆さまへ、伝えたい言葉をお預かりしました。
「一番は『幸せでいてね!』ってことです。私に関係しているときも、関係してなくても。
『皆わろててや〜』です。私の母がよく私に『笑ってる?』って言うんですけど、その気持ち。
皆には、にこにこ、幸せでいてほしいです」
そう口にする黒沢さんの表情は、まさににこにこ、優しく柔らかいものでした。
冒頭にも書いた通り、明るく、ふにゃりとした雰囲気と、意識高く芯の強い部分とで、魅力的なギャップを感じる素敵な方でした。
オープンマインドで質問に答えて下さる姿を見ていると、一緒に仕事をした誰もが虜になってしまうだろうな、と思わせます。
「黒沢さんのように、周囲の方に愛されることがどんな仕事でも重要なんですよね」
そんなSakaseruスタッフの言葉には「愛されたいですね!」と返して下さいましたが、きっと黒沢さんご自身が思う以上に、周囲の方に愛されているのだろうなと感じました。(Sakaseruスタッフはすっかり黒沢さんのファンです)
誰しもが変化を余儀なくされる今ですが、どんな風に変化しても、黒沢さんはずっと魅力的な方であり続けるのでしょう。
お忙しい中お時間頂き、本当にありがとうございました!
Sakaseruスタッフ一同、心からご活躍応援しております!!
[今回のインタビュー:黒沢ともよさん]
Twitter:@TomoyoKurosawa
note:https://note.com/tomoyo_oimo
【取材・執筆】Sakaseruアスカ
【写真】マウスプロモーション提供
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